大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和52年(ラ)6号 決定

抗告人(債権者)

宝塚エンタープライス株式会社

右代表者

伊藤與朗

右代理人

村松貞夫

相手方(債務者)

山幡年重

主文

原決定を取消す。

本件を名古屋地方裁判所へ差戻す。

理由

一抗告の趣旨、理由は、別紙抗告状(写)に記載されているとおりである。

本件は、自己の抵当権を、その後担保債権と同額の他の債務の履行を担保するため、転抵当に供している原抵当権者(抗告人)が、右転抵当権者(丸紅株式会社)の債権残額が自己の抵当債権残額より寡少であるとして申立てた競売申立事件であるところ、原決定は、転抵当権の被担保債権額は利息、損害金の発生によつて増大するので原抵当権の被担保債権額との差額が不確定であるうえ、抵当権の不可分性からしても、原抵当権者は競売申立権を有しないとの理由で、右申立を却下したことが明らかである。

二そこで記録を検討してみると、転抵当契約証書によれば転抵当権者と原抵当権者との間には利息支払の約定はなく、また抗告人が当審において提出した丸紅株式会社作成の確認書(昭和五二年六月一六日付)写によると、転抵当権者である右丸紅株式会社は原抵当権者である抗告人に対し遅延損害金の請求をしない旨約束していることが認められる。

従つて、本件における転抵当権の現存被担保債権は、元本三五〇万円と確定され、原抵当権者は三二二万円(すなわち、原抵当権者の元本残額四二〇万円及びこれに対する年三割の損害金二五二万円(民法三七四条二項により最後の二年分。もつとも記録によれば債務者は昭和五〇年一一月三〇日の経過によつて期限の利益を喪失したのであるが、本件競売申立事件の競売代金の交付がなされるのは昭和五二年一二月以降になるものと予想される。)の合計六七二万円から、転抵当権者が弁済を受けるべき三五〇万円を控除した金額)について、転抵当権者に次いで優先弁済を受けることが可能な地位にあるといわなければならない。してみると、本件抗告人は右の原抵当権に基づいて競売申立をする利益があると解するのが相当である。

そして右の解釈は、抵当権の不可分性に何ら反するところはないというべきである。

三そうすると、本件競売の申立を却下した原決定は相当でないので、これを取消し、更に競売開始の要件について審理する必要があるから、本件を原審に差戻すこととする。

よつて、主文のとおり決定する。

(村上悦雄 深田源次 春日民雄)

抗告状〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例